しあわせおばけ
ゆっくり体を起こしてみると、明日香はリビングの俺とキッチンの相沢を交互に見て、迷わずキッチンへ行った。
「お、姫のお出ましだなー」
姫という言葉に機嫌をよくした明日香は、カレーの鍋を覗き込んで、
「うわぁ、おいしそう!これアイザワクンが作ったの?」
と瞳を輝かせた。
「パパと一緒にね。明日香ちゃんはじゃがいもがキライだってパパが言ってたから、じゃがいも抜きのカレーにしたよ」
相沢は、さりげなく俺を立ててくれた。
でも明日香は、小さな声でふーんと言っただけで、次の瞬間にはもう、
「じゃあ明日香、スプーン用意しよっと」
と、動き始めた。
この1年の間で、明日香が食事の準備を手伝うのは、おばあちゃんが来ているときか、こうして俺以外の誰かがいるときだけだ。
明日香は、俺がいないほうが生き生きしている。
俺はソファの背もたれに肘をかけて、久しぶりに見る明日香の笑顔に見入っていた。