しあわせおばけ
「去年の冬の終わり、ううん、もう春だったかしら。庭の桃の花が咲くか咲かないかって頃。あなたは私を連れて、総合病院に行った。覚えてる?」
俺は顔を覆ったまま、頷いた。
あの日のことは、はっきり覚えてる。
去年の3月頃は、明日香が小学校にあがる直前で、その準備に追われた妻は毎日忙しそうだった。
『最近、体がだるいの』
仕事から帰った俺に、妻は言った。
妻は顔色が悪く、よく見れば痩せたような気もした。
『土日にやれることは俺も一緒にやるから、無理すんなよ』
疲れが溜まってるんだろうくらいにしか考えなかった俺は、軽くそう言って、とくに気に留めなかった。
実際、病院でも疲労が蓄積されていると診断されたと妻は言った。
でもその日を境に、妻は寝込む時間が長くなっていった。