しあわせおばけ

『今はまだ、そんなこと考えられないよ』

もう、そんな縁起の悪いこと言うなよ、などと白々しいことを言うのはやめていた。

お互い、覚悟は出来ている。



入院してからの精密検査で、妻のがんは全身に転移していることがわかった。

通院していた病院の見逃し?

いや違う、町医者はそこまで考えないし、早く大きな病院に行かなかった俺たちにも悪いところはあった。

だからそんなことに時間を費やすよりは、少しでも穏やかな時間を過ごしたくて、俺たちは覚悟を決めた。



『でも明日香には母親が必要だもの。なるべく早く立ち直ってね』

『大丈夫だから、余計な心配するな』

俺は泣きそうになるのを堪えるのに必死だというのに、妻はまるで天使のような微笑みを浮かべていた。



母として、妻として、そして死を覚悟した者としての強さがあった。



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