午前0時、夜空の下で
胸の内で「ね、妃月さま?」と呼び掛ける。

ワンピースのポケットにそっと手を忍ばせれば、やわらかなリボンが指先に触れた。

目を閉じれば、目蓋の裏に浮かぶのは鮮やかな漆黒の君。

ふと、心は自分の鈍さに溜息を零す。

まさか恋をしているとは思わなかったのだ。

妃月の美貌に、魅了されているだけだと、そう思っていた。

初めて彼に逢ったときは、魅了されただけだっただろう。

しかし、キスしてくれないと言って涙ぐむなど、恋愛感情以外の何物でもなくて。

「あのひとは、好きという言葉さえくれないのに……」

どう考えても、自分の片思いだった。

「いつもいつも、思うように動け、好きなように動け、としか言わない……」

がっくりと肩を落とした心の耳に、クスクスと笑う声が届いた。
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