午前0時、夜空の下で
アッシュは懐かしげにパタリと尻尾を動かし、瞳を細めた。

誉の雫と呼ばれる特別な血を受け継いだジュリアは、占いを得意とし、視線や魔力にもひどく敏感だ。

姿を見せないキシナの気配も、敏感に感じ取ってしまうのだろう。

「そういえばレイン皇子、私のこと覚えてたわ。黎明館の様子を見に行ったとき、ばったり会っちゃったのよ。女に溺れて腑抜けになったかと思ったら、相変わらず性根が腐ってて――」

「ジュリア、」

次から次へと話していたジュリアの口が、アッシュの一言でピタリと止まった。

普段口数が少ないアッシュだからこそ、彼女は何よりもその声を優先する。

「気が済んだら戻れ。……お前がいないと落ち着かない」
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