午前0時、夜空の下で
第19話



静かな執務室に、微かな音が届く。

礼儀作法を叩き込まれた者たちが集う城内では、めったに耳にしない音。

回廊を走る音の主は、警備の兵士と揉めているようだ。

クロスリードは手を止めて立ち上がると、扉を背にして窓の外を眺めた。

「クロスリード様!! ココロ様が黎にいらっしゃったとは本当のことなのですか!?」

呼びかけられて、クロスリードはうっすらと微笑み振り向いた。

「あなたがそのように声を荒げるとは……珍しいですね、シリア嬢」

「ふざけないでくださいませ!!」

冷静さを欠いたシリアの声が、クロスリードの執務室に響いた。

控えていた補佐官は驚いたように目を丸くしている。

クロスリードは溜息をつくと、軽く手を振って人払いをさせた。

「ええ、いらっしゃいました。琅の選ばれし姫君として。先程お帰りになられましたが」
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