眠り姫の唇
ふと前川は左手の薬指を見つめ、ふにゃんと笑う。
それがあまりにも幸せそうで、瑠香は無性に岩城に腹が立った。
なんでこんな先輩の幸せを壊すような真似をするのか。
もしあの時、先輩が目を覚ましたら…。
今、先輩はこんな笑顔で笑えていないかもしれない。
昼休み、前川の誘いで一緒にランチを食べに行く。
「今日は私のおごりー。」
「先輩、…え!良いんですか?」
朝のやり取りはほんの冗談だったのに、前川は律儀に中屋の前まで案内してくれた。
目の前に広がるいつもよりちょっとリッチなご馳走に、瑠香の気持ちもちょっとだけ晴れる。
海鮮パスタを一口食べて、瑠香は今日初めて笑顔になった。
「あ、やっと機嫌直った。」