眠り姫の唇


その髪が少し明るめの男性がニッコリ微笑みながら訪ねてきた。

「あ、誰かに渡すの?それ」


胸に自然と抱きしめていたクリアファイルを指さされて、瑠香は、あ、と思った。


この優しそうな人にお願いしよう。


うん。そうしよう。


だって今目の前に見える岩城は鬼みたいに怖いのである。


「あの、岩城さんにことづてなんですけど…」


「ああ、じゃあ後で俺が渡しておくよ。ちょっとみせて。」


その男性がファイルをくるりと表裏をチラリと確認し、何故かうーんと唸った。



「?」


「ちょっとコレ聞きたい事あるから、こっち来てくれる?」


は?


聞きたいこと?



男性はファイルを右の脇に挟み、瑠香の肩を自然に抱いて扉を出た。



無理やり歩かされながら瑠香は困った顔で打ち明けた。



「あの…、すみません私それ先輩からことづかっただけで、中身については何も…」


気がついたら狭い資料室に案内され、後ろでパタンと扉が閉まる。


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