眠り姫の唇

何故こんな人気の無い場所で話す必要があるのか。


瑠香は若干前川を恨んだ。


本当になんでそんな大事な資料なら自分で持って行かないんだあの人は。


「高江さん?」


「はい。」


その人はニッコリ微笑みながら一歩づつ近付く。


「彼氏いる?」


「は?」


彼氏?


資料の話ではなかったのか?


一瞬にして不信感を露わにする瑠香に、その男はまだ笑顔を崩さない。


「ね、いる?もしかして、いない?」


「…。」


…喧嘩を売っているのかこの人は。

なんでそんなことこの人に報告しないといけないのだ。


男だからって上から平然と見下ろしてくるその視線に瑠香はやたらと腹が立った。


しかも、…いるいないで聞かれたら、どう答えて良いか分からない。


岩城は彼氏?


自分は岩城の女なのだろうが、岩城自身が自分の所有かと訪ねられると、かなり戸惑う。


しばらく考えこんでいると、どう捉えたのか目の前の男はニヤリと笑って更に距離を詰めた。


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