眠り姫の唇
前川の下世話な笑顔に瑠香は思わず眉を歪める。
「ちっっがいますよ。その顔ヤメて下さい。」
ギッと睨んで瑠香は目の前のパスタを掻き込んだ。
「私まだ何も言ってないじゃーん♪」
枝毛なんて一本も無いんじゃないだろうかと思われる綺麗な髪を前川はファサッとかきあげる。
「アイツいっつも仏頂面だけど、良い所あるから!」
瑠香は眉間にシワを寄せたまま聞くんじゃなかったとちょっと後悔し始めていた。
勘違いもはなはだしい。
「ほら、私と私の彼と岩城は同期なんだけどね。よく喧嘩しては岩城が慰めてくれてたのよ?アイツ目で人殺せそうな顔してんのに結構優しいとこあるんだから!だから大丈夫!!イチ押し!!」
なにが大丈夫でイチ押しなんだ。
瑠香はこっそり溜め息をついた。
前川先輩は少し警戒心を持った方が良いと思う。
普段こんな感じなのに、なんでこの人仕事になったらあんな出来る女になるんだろうか。
「あの、先輩。」
ーー岩城さんを信用しないでください。
そんな言葉は、運ばれてきた名物のブルーベリーパイへの歓声に消えていった。