眠り姫の唇
キッと鋭い瞳をした岩城と目があう。
瑠香はボトボト書類を落としているのも気にかけず、オフィスを慌てて飛び出した。
ハァハァと息を荒くしながら近くの狭い給湯室に逃げ込む。
…心臓が、バクバクしてる。
岩城さん…えっと確か…。
確か、9階の部署の人だ。
瑠香はぐるぐるする頭をなんとか回転させた。
ここの会社は12階まであって、その階毎に違う部署が入っているので、なかなか他の階の人は覚えにくい。
岩城も週1の朝の全体朝礼でチラッと見るぐらいだ。
しかし、岩城は若い女子社員の間ではちょっとした有名人。
背がすらりと高く、清潔感溢れる整った容姿が密かに人気を呼んでいて。
仕事も出来て、ニコリともしないクールなところとか、厳しそうな瞳が逆になんかセクシーだよね♪と同期のリサが言ってた気がする…。おまけに独身。
「…あーもう。…イイ男が30まで独身って、やっぱり色々問題があるの?」
例えば、もうすぐ人妻になる人の寝込みを襲っちゃうとか。
3分の2に減ってしまった書類を抱えてそんな事を呟いてみる。