眠り姫の唇
「悪かったな色々問題があって。」
突然、
苦くて、ほのかに甘い声色が、瑠香の頭に降ってきた。
目を点にしながら、瑠香は視線を斜め上に向ける。
氷みたいな瞳に捕られられて、瑠香は一歩も動けなくなった。
「ちなみに俺はまだ29だ。」
岩城は不機嫌に答える。
「あ、はい、、」
「あんた、高江瑠香だろ。」
「へ、」
瑠香は何も考えられなかった。
ただただパニックになったまま上を見上げる。
蛇に睨まれたまま、指一本動かせられない。
なんで自分の名前知ってるんだろう。
どうしてこの人ここに居るんだろう。
そんな事よりもまずあの瞳をどうにかしてほしい。
頭だけ働いて全く動こうとしない自分の唇に瑠香は戸惑った。
あの綺麗で冷たい瞳に見据えられると、逃げ場をすべて奪われたような、極寒の地に閉じ込められたような、そんな感覚になる。
どうしようどうしようどうしよう。
それしか考えられない。
パニックと恐怖で瑠香がただただパクパクしていたら、岩城がまたその形の良い唇を開いた。