眠り姫の唇
「あんた、口軽い?」
「え、あ、っ…」
軽くもなく重くもなく、空気を呼んで臨機応変。瑠香はそんな感じだ。
ただ、今はそんなこと答えられる気持ちの余裕はなく…。瑠香は岩城を目の前にして、もごもご口ごもる。
どう答えていいか考えている間に、岩城の眼が一段と鋭くなった。
「…そうか、じゃあ。」
呟くような声が聞こえたかと思ったら、瑠香は書類ごと岩城に引き寄せられていた。
腰と首の後ろに大きな手が回り、顔を大きく上に向けられる。
あ、と思っている内に、瑠香の唇は目の前の冷徹男に奪われていた。
「……!」
あんな冷たい瞳の人間とは考えられないくらい、熱い。
激しく、絡みつくようなキスに、持っている書類を一気にバサバサと落としてしまった。
それでもキスは終わらない。
岩城の胸板を一生懸命押し返すのに、男はビクともせず。
我が物顔の舌のせいで脳まで甘くしびれて、足がガクガクしだした。
……甘くて苦しくて。
瑠香の目尻に涙がにじむ。
「……っ!」
やっとの思いで放して貰えると同時に、全く足に力が入らずその場にドサッと瑠香は座り込んだ。