眠り姫の唇

岩城が居なくなった部屋を瑠香は改めてぐるりと見渡す。

ゴミはないが、その前に物が少なすぎる。

テレビにベッドに机に冷蔵庫。

キッチンも綺麗に片づけられている…と思ったら、料理をした形跡がない。


この人何年一人暮らししてるんだよと瑠香は一人で突っ込みを入れる。

壁も天井も真っ白で洗練されたデザイン。

隣の物音も一切聞こえない。


しかも瑠香のアパートより数段広い。


「(いちいち羨ましいな。)」

瑠香はテレビにも飽きてベッドにゴロンと転がった。


…まさか昨日の今日でまたこの場所に舞い戻ってくるなんて。

不思議な感覚のまま少しの間目を閉じる。


シーツから岩城の匂いがして、少し困ってしまった。


安心するような。


心乱されるような。


「彼女ねぇ…。」


何なんだろう、恋人って。


瑠香は今までちゃんと告白されてからの交際しか経験したことがない。


こんな始まり方、どうしたらいいのやらよく分からない。



ガチャ。



「あれ、もう寝たのか。」





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