愛してんで


隆「何処へも行かないから…奏の側に居るから…」


隆太が、そっと手を握り締めた。


隆太の言葉が届いたのか、奏は意識を手放して、臣に体を預けた。


綾「タクシー、停めてくる。」


綾は、小屋を出て涙を拭うと通りへと走った。


臣は、奏を抱きかかえ小屋を出る。


隆太に包まれた手は、ぎゅっと臣の服を掴んでいた。


いつの間にか、激しい雨は止み、当たりは静寂に包まれていた。


綾が停めた、タクシーに乗り込み、寮へと向かう。


タクシーの中は、誰も言葉を発する事無く、終始無言で家路に着いた。


寮では、目を真っ赤にしたおばちゃんが出迎え、奏を部屋へと運ぶと、暖かいお風呂と食事へと促してくれた。


その日、寮は静けさに包まれて、眠りについた。



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