気がつけば愛でした


泣きたくなるのをこらえていると、高柳がフッと笑った。



「面白れぇやつ」

「なっ…」



せっかく人が心配しているのに、と思った時、高柳の頭がフワッと静奈に寄せられる。



「た、高柳さ…」

「髪、乾かして。」

「え?」

「本当は動くのもしんどい」

「っ…はい…」



高柳が下を向いてて良かったと思う。自分が真っ赤になるのがわかったから。

素直に甘える高柳に正直、心臓がうるさいくらいドキドキしていた。

サラサラの黒髪をドライヤーで乾かしているときも、無防備な彼にいつもの高柳の姿が見られない。

それが静奈には嬉しかった。



「冷たくて気持ちいいな」



氷枕に頭を乗せてそう呟いた。

広いベッドに身体が沈みそうなくらい力を抜いて、隣の静奈を見上げる。
きっと朝から熱があったのだろう。今朝遅れたのも、身体が重くて、本当に家を出るのが遅くなったのかもしれない。

そんなことを静奈は頭の片隅に思った。



「ゆっくり休んで下さい」

「橘…」

「はい。」



高柳が手を伸ばし、静奈の腕を掴む。



「居ろよ。ここに。」

「っ…」



熱でぼんやりした瞳で、たまにでる俺様的な言葉。

静奈はなぜか逆らえず、辛そうに息を吐く彼の手を、ソッと握り返した。











< 111 / 348 >

この作品をシェア

pagetop