「愛」 -レンタル彼氏-【完結】
「お待たせー」

軽い声で聖がそう言うと、その後ろに無表情の伊織が見えた。
俺が伊織と、話すのはこれが最初だったように思う。


それまでは廊下でばったり会っても、何も話しなかった。
挨拶すらしてなかったから。


だからこそ、聖と吏紀の社交性には感服する。
誰とでも気兼ねなく話せるって、凄い能力だ。

俺には無理だ。
…まあ、したいとも思ってないのが事実だけど。


「伊織、そっち座って」

吏紀の部屋でもないのに、そう指示する吏紀。
伊織は俺の隣に黙って座った。

聖はさっきいた場所に腰を下ろす。
その横に吏紀。


「伊織、何飲む?」

「俺ビール」

「吏紀に聞いてない!」


思えばさっきから、聖と吏紀しか喋ってねえけど。
二人はギャーギャー言い合いをしている。


「……俺、チューハイ」


その二人の会話を遮るように、ぼそっと横で呟くように言った伊織。
それに二人はぴたっと止まると、吏紀が慌ててチューハイを差し出した。


「ども」

伊織はお礼を言い受け取ると、タブを引っ張って開ける。
そして、勝手に飲みだした。
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