棘姫
摘出手術をすることが決まった時。
『将来のことを考えると…李羽さんにはとても辛い手術になるでしょう』
医者がこう言っていた。
あの時は、ただ単に手術自体が怖くて深くは考えなかった私。
学校で保健の授業を受けた時―
ようやく意味を理解した。
卵子がないと子供は産まれない。
卵巣を摘出してしまった私は…子供が産めない体。
もし、好きな人と結婚したとしても、私はその人の子供を産むことが出来ない。
幸せな家庭なんて築けないんだ。
そう気付いた時
私の中で何かが崩れたの。
それなら、
誰かに恋するだけ無駄。
恋愛しても哀しくなるだけ、私には無意味。
いつからか私はこう考えるようになっていって…
"愛"を拒絶するようになった。
今は、恭哉を好きかどうかもはっきりと分からない。
…分かっちゃいけないんだよ。
誰かを好きになっても、決して変わらない現実があるから。
恋して傷付くなら辛くなるなら、
私は愛なんていらない。
『―…羽、李羽!!』
「ぇ?」
気付くと恭哉が耳元で私を呼んでいた。
『お前、最近意識飛びすぎ。しっかりしろよ』
軽く額をつつかれた。
ねぇ、恭哉?
私が病気だった時も、恭哉は変わらずに接してくれたね。
もし…
私が子供を産めない体だと知っても、私の側にいてくれるの?
私から離れたりしませんか?
こう聞けたらどんなに楽だろう。
でも、怖くて聞けないよ…。