棘姫
『ま、君の言い分も間違いじゃないね。現に、君があのままおじさんにホテルへ連れこまれても、俺は何も困らなかったし』
少年はあたしを真っ直ぐに見て言い切った。
よく分かんない奴だ。
ただのお人好しかと思えば、あたしと似た冷たい思考も持っている。
あたしはお人好しな部分なんて…少しも持っちゃいないけど。
「あんた…訳わかんない」
『そりゃそうだろ。
初対面なんだからさ。
俺には君の方が訳わかんないけど』
「どういう意味よ?!」
あたしだって同じこと言ったくせに、言われる側になるとやっぱりカチンとくる。
『君さ、人間っていうか…男嫌いなんでしょ』
慎重に言葉を選ぶように、少年はゆっくり喋った。
「そうねぇ。
男も…人間も嫌いよ」
大嫌い。
あたしだって人間だけど、人間なんか嫌い。
"地球上の全ての人間がいなくなればこの世界は平和になる"
そんな話を聞いたことがあるけど、本当にその通りだと拍手したい。
もういっそのこと、あたしも含めてみんな消えてしまえばいい。
それか、
2度と覚めない永遠の眠りにでも就いてしまえばいいのよ。
あたしを目覚めさせてくれる人なんて永遠に来ないでしょう。
仮にもし、そんな日が来たとしてもあたしは何も後悔しない。