棘姫
走って走って
必死に逃げて…
気付くと小さな公園に着いていた。
『ふぅ。
ここまで来たら大丈夫かな』
少年が膝に両手を付き肩を上下させる。
こいつに手を引いてもらえなかったら、今頃あたし…どうなってたんだろ。
呼吸を整えながら横顔を見つめる。
乏しい街灯の灯りに、片耳のピアスがキラッ…と光った。
『ずいぶん走ったけど、大丈夫?』
少年がこっちを向いた。
綺麗な瞳…。
あの少女と似た真っ白な雰囲気を感じた。
「…なんであたしを助けたのよ」
本当は感謝してる。
"ありがとう"
とお礼を言いたいよ。
でもやっぱり素直にはなれなくて…。
真っ先に口を飛び出したのは、相手の善意を踏み潰すような疑ってかかるもの。
『うーん。
なんでだろうね。
でも普通、助けない?』
当然というように、人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。
「助け…ないでしょ。
だって所詮他人よ?
どうなろうが自分には関係ないじゃない。そんなお人好しな性格だと、あんたその内借金でも背負わされるわよ」
少年とは反対に、あたしはバカにするような笑みを浮かべた。
本当に、どうしてこういう事しか言えないんだろう。
『借金なら、もう背負わされてるよ』
少年が苦笑いを零す。
無理して笑ったのが解った。