ワケあり!
「さて、一段落したし…お茶にしようか」

 絹が再びチョウの部屋に戻ると、彼に笑顔で先手をうたれた。

 さっきの件が、どう決着したのか気になるのだ。

「大丈夫だよ、お嬢さん…巧のことはあきらめたから…ははは、季節はずれのサンタのおかげにしとくさ」

 チョウの軽やかな笑い声に、ボスは微妙な表情をしていた。

 きっと、未練があるに違いない。

 絹が、ほっとして微笑むと、ボスに睨まれた。

 さっと顔をそらして、視界に入れないようにする。

「チビたちも待ってるだろうから、居間に行こうじゃないか」

 促され、ボスはソファから立ち上がった。

「あ、私片付けていきます」

 あらかた片付けられている製品だが、ここに置いたままだと心配だ。

「ああ、すまないね…京、手伝ってあげなさい」

 遅れて戻ってきた京と、二人で片付けることとなった。

 ついさっき、ダークな部分を見せた相手と、一つの作業というのは、少しやりづらい。

 そんな、絹の視界に。

 ふーん。

 壁ぎわの棚に飾られた、フォトフレーム。

 将によく似た男と、絹によく似た女。

 女の腕には赤ん坊。

 男は、両腕に一人ずつ子供を抱えている。

 広井家の、一番幸せな一日、というところか。

「あんまり、見んな」

 手が止まっていたのに、気付かれたようだ。

 京は、彼女の見ているものを、歓迎していなかった。

「仲のいい、家族の写真じゃない」

 再び作業に戻りながら、絹は感想を口にする。

 母は死んだかもしれないが、どうも京はその過去を悪く扱いたいようだ。

「オレは、一番覚えているから…いろいろ思うところがあるんだ」

 確かに。

 長男の彼は、一番母親を覚えているだろう。

 甘えたい盛りに、いなくなったのだ。

 悲しさも、人一倍覚えたに違いない。

「笑ってもいいぞ…」

 不意に、京は声をひそめた。

 この部屋には二人で、誰も聞いていないというのに。

「オレはまだ…おふくろが、死んでないと思ってる」

 声をひそめないと――何か、怖いものが襲ってくるかのようだった。
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