ワケあり!
「絹さん、誕生日っていつ?」

 森村直後の、ランチタイム。

 絹の意識の一部は、そっちへ行っていたが、了の声に引き戻される。

「誕生日?」

 三兄弟の中で、そんなことを言い出すのは、了くらいだろう。

「うん、もう過ぎたとかじゃない、よ、ね?」

 最後の方は、心配になったのか、声が揺れる。

「七月よ…七月七日」

 冗談でも何でもなく、真実だ。

 学校の書類も、それで出されているはずだった。

「ちぇ、京兄ぃと同じ月かぁ」

 七夕に驚くより先に、そんな不満を言われるとは。

「あ、でもでも、七夕なんてロマンティックだね…」

 だから、天文部に入ったんだね。

 一人で楽しそうだ。

 天文部に入った動機など、もっと下世話なものだと言うのに。

「でも、いつも梅雨明けしてなくて、星なんか見えないわ」

 誕生日が、雨でなかったことの方が少ない。

「あっ、北海道なら、梅雨がないから晴れてるかもよ!」

 ぽーん。

 軽い音で、了の話が飛んだ。

 どんな思考回路をしているのか。

「僕、一番素敵な絹さんの誕生日を考えるよ」

 瞳が、輝いている。

 俄然、やる気になった目だ。

「り、了くん?」

 金持ちの感覚は、分からない。

 北海道、なんてセリフが出るのだ。

 誕生日旅行に行こう、と誘われるのではないか。

「京兄ぃも将兄ぃも、絹さんの誕生日知らないよね…くふふ」

 既に、二人を出し抜く気満々だ。

「了くん…北海道旅行に誘っても、私断るわよ」

 なんというかもう。

 くすくす笑いながら、釘を刺す。

「ええーどうして分かったのー? なんで断るのー?」

 驚きとブーイングに、更に絹は、笑いをこらえなければならなかった。

「二人きりで旅行なんてだめよ…了くんも男の人なんだから」

 落ち込ませないように、一人前扱いすると――了の顔が赤く染まった。
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