ワケあり!
「了に…なんか言った?」

 翌日の教室。

 車の中では聞けなかったらしく、一緒に登校した将が、席に着くなりそう言った。

「え?」

 どういう意味か分からずに、聞き返す。

 了に、何か異変があったのだろうか。

「あ、いや…なんか昨日から、地に足ついてないみたいで…コケるし、ぶつかるし、間違ってオレの部屋に入ってくるし」

 将の言葉は、困惑に満ちていた。

 それに絹は、笑ってしまいそうで困るのだ。

 昨日、一人前扱いしたせいで、了の中で何か芽生えてしまったのか。

 母親に似た、お姉さんのような絹――それが、少し形を変えてしまったのかもしれない。

「了くんも思春期だから、いろいろ悩みがあるんじゃないの?」

 罪作りなことをしてしまったようだが、それを説明するわけにもいかなかった。

 知らぬふりをするだけだ。

「そっか…」

 将は、納得したようだ。

 カンは悪くないが、ツメは甘い。

 だから、絹は助かるのだが。

「そういえば、了くんに誕生日を聞かれたわ…将くんは、誕生日はいつなの?」

 男に先に誕生日を聞かれるというのは、多少おさまりの悪いことだった。

 こういうアニバーサリーは、女性の方が率先して動かないといけないのに。

 彼らの誕生日を知ることで、いろいろ口実ができ、ボスが喜ぶかもしれないのだ。

 資料でひととおりのプロフィールに目を通していたが、本人の口から聞いておかなければならなかった。

「オレは11月…15日」

 一瞬、言葉にためらいがみられた。

 ああ。

「七五三ね」

 にこっと笑って指摘すると、将は顔をくしゃっと歪めた。

 余り好きではないようだ。

「子供っぽくて、ヤなんだよ」

 京は、7月17日。
 了は、3月31日。

 と、それぞれ聞いておく。

 これで、なんなりと計画も立てられる。

「3月31日で了って…年度の終わりだから?」

 ふと、そう思ってくすっと笑ったら、将が微妙に苦笑した。

「それ、本人に言うといやがるから…やめてやってね」

 うちの親、名づけのセンス悪いんだよ。

 将の言葉に、猛烈に笑いがこみ上げてしまった。
< 124 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop