ワケあり!
「何してんねん!」

 神!

 こんなにまで、関西弁が愛しく思えたことはなかった。

「天野さん、またあなたですの」

 ゴージャス天野の登場に、五人の美女はざわめく。

 意識がそれた一瞬を、絹は見逃さなかった。

 分身の術をすりぬけ、五人の包囲網を突破したのだ。

「ちょっ!」

 気づいた天野が、頓狂な声をあげるが、絹は振り返らなかった。

 今は、それどころではなかったのだ。

 森村は、校舎の外へと向かっていた。

 絹の行く方向と同じだ。

 出て行くついでに、用事をすませよう。

 滅多にない好機だった。

「森村さん」

 背の高い人間は、便利だ。

 どんな距離からでも、見逃しづらい。

 振り返る、冷ややかな瞳。

 絹の存在を、快くは思っていないようだ。

 彼女が絡むと、渡部がきっとつっかかってくるだろう。

 この間の、図書室の一件もバレていたし。

「ひとつだけ」

 拒絶される前に、絹は人差し指を立てた。

 挨拶も、さっきのことも抜き。

 最重要項目を、1つだけ突きつける。

「祇園祭で、何があるの?」

 ざわり。

 聞いた直後、絹の首筋の産毛が、一斉に逆立った。

 冷ややかな目、ではない。

 絶対零度級の、凍りつく目だ。

 それは――怒りで出来ていた。

 その怒りが、まっすぐ絹に向けられる。

 長い腕が、彼女に伸ばされかけたのに、反射的に飛びのいていた。

 殺気さえ、そこにはあったのだ。

 防御本能だった。

「絹さん~」

 了が割って入ってこなければ――絹はどうなっていただろうか。
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