ワケあり!
 車は高速にあがり、北の方へ針路を取る。

「どんなところ?」

 具体的な目的地は聞いていないので、将に話を振ってみた。

「いいとこだよ。星が、とにかくサイコーに見えるんだ。多分、こないだの大停電くらい」

 手放しでほめる将に、絹も微笑んでいた。

 島村のやらかした、あの停電の空は、いまでも彼女の心に焼き付いていた。

 あれに、また会えるかと思うと、胸が高鳴る。

 星なんて、興味なかったはずなのに。

 危険な気持ちでもあった。

 星に、うつつを抜かせる立場ではないのだから。

「絹さんの好きなさそり座も、きっときれいだよ」

 オリオンを殺したさそりの話を、将はもう気にしている様子もない。

「絹さんは、巧と同じ星が好きなのか…仲良しだなぁ」

 話に、チョウが割り込んできた。

「有名な星座だからだよ」

 苦笑混じりに、ボスが答える。

 そういえば、とっさにボスの好きな星座をパクったのだ。

 変なところで、ボスにとばっちりがいってしまった。

「仲良しでいいじゃないか…巧も照れるな」

 誤解したままのチョウが、肘で隣をこづく。

「あっ、いや…」

 いま、ボスがどもっているのは、照れたからじゃない。

 チョウにこづかれた事実に、舞い上がっているからだ。

 絹は、それにくすっと笑った。

 京が――何か言いたげに、自分を見ていた。

 彼女の、猫の毛皮の中を覗こうとする目だ。

 だめよ、見せないわ。

 絹は、そんな彼ににっこりと微笑んだ。
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