ワケあり!
 島村ショックが抜けきれないまま、絹は荷物を持ってワゴン車に乗り込んだ。

 あれは、ええと。

 ボスは既に、チョウの隣の指定席に座って上機嫌モードだ。

 とても、こんな話題を出せる状態じゃない。

 ま、まあ、多分悪いことじゃ、ない、よ、ね。

 自分にそう言い聞かせながら、絹はとりあえず保留箱に入れた。

 そんな彼女の視界の端で。

「じゃんけん、ぽんっ!」

 将と了が、何故かじゃんけんをしている。

「よっし」

「うぇぇー」

 勝ったのは将。

 了は、しょぼくれながら京の隣の席にすわった。

 ははん、なるほど。

 今日の後部席に座るのは、四人だ。

 京と了が同じ側に座るということは。

「ここに、いいの?」

 くすくす笑いながら、絹は将の隣の席を指す。

「そそ」

 にこやかな将の向かいでは、了が往生際悪く、絹を手招きしている。

 了には悪いが、せっかくじゃんけんで勝った将をむげにも出来ず、彼の横に腰掛けた。

「絹さん、三時間くらいかかるから、のんびりしててね」

 座席に腕をかけ、振り返るようにチョウが声をかけてくれる。

「はい、お世話になりますー」

 にっこり微笑んだら、その瞬間、チョウの時間が止まった。

 ああ、しまった。

 絹は、出来るだけ自然に顔をそらす。

 この顔は、彼には毒なのだ。

「親父」

 京の静かな呼び掛け。

「あっ? ああ、なんだ」

 我に返ったチョウの声。

「親父まで入ってくんなよ、ただでさえ面倒なんだから」

「え? なんのこと?」

 曖昧な京の言葉に、食い付いたのは了。

「ああ、肝に命じとくよ」

 チョウは、軽やかに笑いながら、体を前に戻した。

 うーん。

 絹は、反応に困って苦笑するしかない。

「ねぇ、京兄ぃ、何の話?」

「うるせぇな、おまえみたいのが、一番ちゃっかりしてんだよ」

 京は近付いてくる弟の顔に手のひらをあてると、ぐいと遠くに押しやったのだった。
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