ワケあり!
 どこで、覚悟を決めればいいのだろう。

 もはや、止まらない。

 止まらないというのならば、これは──絶対に成功させなければならない、ということだ。

 サイを振ったのは、絹。

 出た数字を、勝利の数字に変えるための足りない駒に、絹がなれるというのならば。

 アキの手を、掴むべきだ。

 危険な仕事。

 いや、アキでなければ、きっとみな絹を後方へ押し込めておいただろう。

 さらわれないように、危なくないように。

 女だとか、顔がどうとか、アキには関係ないのだ。

 だから。

 いくべきだ。

 手を──掴む。

 ぐいっと。

 絹の身体は、まるで軽い繊維のようにベッドから引き上げられた。

「では、準備して参ります」

 手を離しながらも、アキの目はすぐには離れない。

 アキが準備をしている間に、絹にもそうしろと。

 彼女の言葉の影にある、本当の言葉が聞こえてくる。

 言われないことをするのは、自分の意思だ。

 絹にとっては、厳しい決断の必要なその部分。

 ボス、すみません。

 後でクビにでも、実験材料にでもなります。

 必ず──そこから助けます。

 アキが出て行くや、絹はどうでもいい服を脱ぎ捨てた。

 いまの自分に必要なのは、こんな服ではない。

 戦える服だ。

 シャツとジャージでいい。

 それと、しっかりした靴があれば十分だ。

 脱いだ服もそのままに、絹が部屋を出ると。

 了の部屋から、将が出てくるのと鉢合わせた。

 一番、顔を合わせづらい相手。

「どこへ?」

 見慣れない姿の絹に、彼は動きを止めた。

「自分の仕事をしに」

 それでも、絹はしっかりと将の顔を見る。

 嘘の微笑みなんて── 一緒に脱ぎ捨ててきてしまった。
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