ワケあり!
 夜なら、教官は三人くらい。

 ただし、アキクラスの腕だし、武術も火気もお手のものだ。

 高速を経由し、長く長く車で揺られ、二時過ぎに見覚えのある山道に入った。

 忘れられない、忌々しい山。

 売られて出ていったとしても、絶対に戻ってくるもんかと、誓う場所だ。

「角川…もうつくぞ、終わったか?」

 携帯を顎で挟み、バックアップの状況確認をしている。

「はいはい、もう少しね…わかったわかった」

 携帯を切った男は、状況をいちいち復唱したりはしない。

 手間取っているようだ。

「角川の腕も鈍ったなぁ」

「ゲームばっかり作ってるからだろ?」

「オタクの割に女好きだからな、女ボケもありだな」

 言いたい放題言われてますよ。

 絹は渡されたハンドガンを確認しながらも、苦笑してしまった。

 思い出そうとしなくても、勝手に頭に顔がよぎったのだ。

 絹に声をかけてきた男は、軽そうに見えて肝が座っていた。

 アキ側の人間だったなら、納得もいく。

 絹に、違う匂いを感じたのかもしれない。

 絹の携帯が、振動した。

 了からだ。

『絹さん、こっちオッケーになったよー!』

 明るく笑顔で――角川の手柄を横取りだ。

 きっと了は、チョウとは違うタイプの大物になるだろう。

「ありがとう」

 笑いながら、絹はそう確信した。

「バックアップ、いけるそうです」

 彼女は、きちんと報告したが、既に気配を感知していたのか、銃砲隊は準備完了状態だった。

「地雷に注意してください。板を渡した跡の場所は安全ですが、狙い撃たれる場所でもあります」

 絹は――言わなければならなかった。

 それが、自分の本当の身元を明らかにしてしまったとしても。

「なるほど、じゃあ狙い打たれるような、開けてる場所が安全ってことだな」

 詳細情報として、絹を知らない人たちは、素直にそれを受け入れる。

 アキは――絹を見ないでくれた。
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