ワケあり!
「絹さんは、お体の具合が悪いと伺ってましたが、大丈夫ですか?」

 休み時間になった時、最初に近づいてきたのは、委員長と紹介された女性だった。

 さすがに金持ち学校の委員長は、びんぞこ眼鏡や三つあみではない。

 綺麗に編みこんだ髪と、役に立つのかと心配になるくらいの小さい眼鏡。

「ええ、一過性の病気で、完治しましたから、体育にも参加できます」

 周囲の遠巻きの視線を感じつつ、絹は穏やかに答えを返した。

 それより。

 えらく、隣席の広井 将の視線の食いつきがいい。

 さっきの授業の間、とにかくじーっと、食い入るように見ていたのだ。

 いまも同じだ。

 こいつも、面食いか。

 絹は、そう判断するしかなかった。

 これは、仕事が簡単そうだ。

 その方が、彼女にとっても助かるのだが。

「部活動などは、何か考えてますか? もう活動紹介は終わってしまいましたので、興味がおありなら、パンフレットを持ってきますよ」

 委員長の親切な言葉に、絹は軽く記憶を探る。

 そういえば、絹はボスにいろいろ知識を植え込まれていた。

 確か。

「こちらに、天文部はありますか?」

 私、星が好きなんです。

 いけしゃあしゃあ。

 絹は、心にもないことを口にしてみた。

 すると。

 はっと、将が反応した。

 委員長も、ああと呟いた。

「天文部でしたら…こちらの広井くんが所属している部ですね。彼に案内してもらうといいと思いますよ」

 あとは彼と話せとばかりに、「何か分からないことがあったら声をかけてくださいね」、と言い残し、委員長は去った。

 これで、絹は彼の方を見る口実が出来たわけだ。

 視線を送る。

 彼が自分を見ているのを確認して、にっこりと微笑んだ。

「天文部について、教えてくださいますか?」

「あ、ああ…」

 将は、釣り針に簡単に引っかかった。

 ほんと――チョロイ。
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