ワケあり!
 いよいよ、放課後。

「ごめんね、絹さん巻き込んで」

 将と共に、応接室に来るように言われたので、二人で向かう。

 保護者を交えた説教が待っているだけなのだから、うきうきするわけにはいかない。

 だが。

「気にしないで…」

 絹は、嬉しさを表に出さないように、気をつけるのが大変だった。

 今日、ついにチョウと会うのだ――ボスが。

 三人の息子から、遠回りに彼に近づこうとしてたボスに、その機会を作れたことが嬉しい。

 あとは。

 チョウが、ボスを喜ばせてくれるかどうか。

 それと、これを機に、二人の間に交流が復活すること。

 絹が願っているのは、そういうところだ。

「失礼します」

 応接室につくと、将が先に――それから、絹が入った。

 中にいるのは、教師と。

 ボス。

 だけ。

 あれ?

 将の保護者が、まだ来ていない。

「こんにちは…」

 眼鏡の男を見て、将が絹の保護者と判断したようで、頭を下げる。

 軽い会釈を返しているボス。

 彼の心中は、きっと複雑だろう。

 本命のチョウが、まだ来ていない。

 しかし、そっくりな将はきてくれた。

 喜んでいいのか、落ち込んでいいのか分からない状態だろう。

 平静を装っているのが、いっそかわいそうに思える。

「あー…広井くんのお父上は……」

 教師が、不在の人間について語ろうとした時。

「すみません! 遅れました!」

 ノックもなしに、バタンと応接室のドアが開く。

 翻る、背広の裾と――ネクタイ。

 絹は、その一瞬。

 眩しさを覚えた。
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