ワケあり!
 女性から、特定の女性に送る視線。

 好意、憧れ、好奇、嫌悪、憎悪、嫉妬。

 良い感情にせよ、悪い感情にせよ、その相手の持ち物を取る――というのは、ありえないことではなかった。

 良い感情なら、「あの人の持っているものが欲しい」。

 悪い感情なら、「あいつの困る顔を見てせいせいしたい」。

 まあ。

 多分――後者だろうな。

 絹は考えた。

 前者なら、物は大事に持ち続けられるだろう。

 しかし、後者なら。

「……!」

 アシがつく前に、どこかに捨てるはずだ!

 はっと、絹は顔をあげて歩き出した。

 もう休み時間が終わる。

 既に、焼却炉の藻屑となっていないことを祈りながら、絹はそこへと急いだのだった。
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