ワケあり!
 絹は、ペンと認識しているが、見た目はシックな様相の万年筆だ。

 高そうに見える。

 しかし、この学校の生徒が、そんな金銭感覚でペンを盗むとも思えない。

「万年筆が…なくなってるんです」

 絹は大事にならないように、更衣室の隅で委員長に相談した。

「え…なくなってるって…ここ以外で落とした、とかは考えられない?」

 委員長も、盗難とは信じられないのだろう。

 もっともな意見を、言ってくれる。

 しかし、絹は更衣室に入る直前に、スイッチを切ったのだ。

 他で落とすなんて、ありえない。

「はい…最初の着替えの時まで、確かにありました」

 慎重な口調で、絹は言った。

 それを、信じてもらうしかない。

「既に着替えて出た人もいるから…まずは、拾得物として届けられていないか、事務に聞きましょう」

 それでいい?

 建設的な言葉だ。

 着替えの際に床に落として、先に戻ってきた人が拾ったということも考えられる。

 絹は、着替えを済ませて事務へと向かった。

 委員長には、教室に戻って結果を報告することにして、一人で行くことにしたのだ。

 後ろ暗いものだけに、何かトラブルが起きるかもしれない、と。

「万年筆…ですか…届けられていませんね」

 やっぱり。

 あの視線は、何だったのだろう。

 絹は、事務室の廊下に立ったまま、ほんのちょっと前の出来事を、思い出そうとした。
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