ワケあり!
「万年筆…いえ、ありませんね。それに、まだ今日のゴミは届けられていませんよ」

 管理人の言葉に、絹は心からほっとした。

 少なくとも、焼かれておしまい――にはなっていないのだ。

 となると。

 絹は、苦い表情を浮かべた。

 京に、それを言わなければならないのか、と。

「京さんは…授業に戻ってください。あとは何とか……」

 彼女が抵抗しようとすると、その額をピンと指で弾かれた。

「形見なんだろ? とっとと探すぞ」

 グダグダうるせぇ。

 京は、ざくざくと歩き出す。

 あーあ。

 覚悟を決めなければならないようだ。

「じゃあ…ゴミ箱を」

 言ったら、彼は少し不機嫌な顔で振り返る。

「お前…いじめられてんの?」

 そう思われても、おかしくないだろう。

「分かりません…でも、心当たりがないから…」

 曖昧に濁すしかなかった。

「また、高尾の野郎じゃねぇのか?」

 人前で、殴られたり叩かれたりした男の名前が出てくる。

 だが、今回に限って言えば、濡れ衣だろう。

「女子更衣室で、なので…」

 そんなところに高尾が入って、万が一見つかりでもしたら、汚名どころの話ではない。

「しょうがねぇ…更衣室の外のゴミ箱からだな」

 ゴミは、放課後に清掃員が回収するという。

 掃除そのものも、生徒はしないのだ。

 だから、ゴミ箱の中にあるというのなら、この時間――きっと安全だと思われる。

 それを祈って、絹はゴミ箱に手を突っ込んだ。

 授業中であったのが幸いだ。

 少なくとも、こんな姿を他の生徒に、目撃されることはない。

 面倒な教師に見つかる前に、万年筆を探し当てたかった。

 あはは。

 いくつものゴミ箱をひっくり返しながら、彼女は自虐的に笑っていた。

 手分けしているので、京はすぐそばにはいないのだ。

 お金持ち学校で、こんな綺麗な顔をしておきながら、ゴミ箱を漁るなんて、と。

 野良猫のような、みじめな気分だった。
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