ワケあり!
「え…絹さん携帯持ってなかったの?」

 朝のお迎えの時、三兄弟に驚かれた。

 代表で、言葉に出して驚いたのは、了だったが。

「昨日買ってもらったばかりで、慣れなくて」

 そう、だからさっき車に乗ろうとしていた絹は、島村に追い掛けられたのだ。

 携帯を、忘れそうになったためである。

 昨日、ほぼ徹夜で改造していたらしく、朝に絹は受け取ったばかり。

 その矢先に、忘れて出てしまったので、追い掛けてきた島村の顔を見られなかった。

 さぞや、お気に召さないんだろうな、と。

「携番とメアド、カモーン」

 了が、カバンから携帯を取り出しながら、テンション高く言う。

「えっと…どこかな」

 受け取ったのは、本当に今朝だ。

 島村も、改造した部分の使い方しか教えてくれなかったため、基本操作が分からない。

 まだ、普通の無線機の方が、よほど使い方を仕込まれていた。

「あ、貸して貸してー」

 了に取られる。

 受信機の機能は、分かりづらいやり方で出すので見つからないだろうが、一応心配で見守る。

 了は、猛烈な勢いで絹の携帯のボタンを、速押ししていた。

 感心する速さだ。

「このメアド…絹さんが決めたの?」

 その手が、ぴたりと止まる。

「ううん…全部島村さんに任せたから」

 どんなアドレスにしているのか。

「“sakurasaku”…ママの名前が入ってる!」

 ママに過敏に反応する末っ子は、嬉しそうに身体を上下に跳ねさせた。

「いや、母さんの名前と言うより…合格発表みたいだぞ」

 弟の都合のいい解釈に、将が口を挟む。

「ま、早死にしたおふくろより、そっちの方が縁起がよさそうだな」

 京の言葉は、了をさくっと刺した。

 一瞬にして、末っ子の顔が険悪なものに変わったのだ。

「京兄ぃって、デリカシーないよね!」

 島村がきまぐれで決めたメアドのせいで、兄弟喧嘩に発展してしまった。
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