ワケあり!
「で…いままでスイッチが入れられなかった、と」

 帰ってきた時のボスは、不機嫌に感じた。

「はい、ずっと広井京が一緒でしたので、何らかの故障が外に出た場合、ごまかせないと思いました」

 これが、スイッチを入れられなかった理由。

「オレは、体育後にスイッチを忘れている…と踏んだんだがな」

 島村が敬語を使わない時は、絹に向けたものだ。

 随分、マヌケに思われているようである。

「確認しよう」

 手を差し出され、絹は万年筆をボスへと渡した。

「しかし…」

 じっと見つめるボス。

 まだ汚れているのだろうか。

 水は使えないので、絹がティッシュで綺麗に何度も拭いたのだが。

「しかし…これを探す京くんを…見たかったぁ」

 ヨヨヨヨ。

 万年筆を握り締めながら、よろけるボス。

 申し訳なく、絹は苦笑した。

「それに…一緒に授業をさぼったのだろう…うう、サボタージュな京くん」

 ほんと、すみません。

 見せてあげたかった絹も、心の中で合掌する。

「今後、同じことが起きた時の対処用に、何か仕込まないといけませんね」

 島村が考え込み始めた。

「狭範囲発信機でもつけとけばいいだろう。絹に携帯を持たせて、そっちで受信させればすぐに見つけられるように…ああ、京くん~」

 一瞬だけ、さっとボスは科学者の顔に戻ったが、最後にはまた長男の名前を呼び出す。

「携帯を受信機に…それならカモフラージュも完璧ですね」

 感心したように、島村は復唱する。

「仕入れてきて、さっそく改造します」

 彼は、白衣を脱いで出かけていった。

「ところで…」

 ボスが、ゆっくりを顔を上げる。

 どちらかというと、科学者寄りの顔で。

「犯人の女が、また同じことをして、それを見つけたら」

 どうするかね?

 言葉に、絹は目を伏せた。

「泥棒なんて汚名はいやでしょうから、それを盾に二度と同じ事をしないように言うだけですね」

 ふむ、とボスが考え込む。

「いっそもう少し発展させて、下僕にするってのはどうだろう」

 彼は――真顔だ。

 一体、どんな高校生活を送ってきたら、そんなことが言えるのか。
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