ワケあり!
「そんなに、保護者が気になんのか?」

 あの丘へと向かう車の中、ぼそっと京に囁かれた。

 無意識に、何度もボスの様子を伺っていたのを見られたのだ。

 いや、仲良くしてるといいなあと、気になって。

 とは、言えない。

「一緒に出かけるって…ほとんどないから」

 向かいの二人には聞かれない音量で、京に囁き返した。

 内容は、曖昧だ。

 ボスと血がつながっていないことは知られているので、何となく雰囲気だけ理解してもらえばよかった。

「いろいろあるんだな」

 理解しがたそうに、京は絹の言葉を受け流す。

 あ。

 なんか。

 視線が痛い。

 絹は、おそるおそる顔を、京から自分の正面へ向けた。

 将様だ。

 内緒話がお気に召さないのか、ボスのいうところの「翳り」らしいものが、見え隠れし始めている。

 自分が宮野相手にいい人になろうとして、それで勝手にブルー入られても困る。

 絹は、ふっと視線をそらした。

「高坂さん…天体望遠鏡って持ってます?」

 その微妙な雰囲気もものともせず、宮野が彼女に話しかけてくる。

「いいえ…持ってないわ」

 絹は、事実だけを答えた。

 いろいろ尾ひれをつけて話を膨らます気には、ならなかったのだ。

 だが。

「あるぞ」

 どこからか、声が聞こえる。

 絹は、はっと顔を前へ向けた。

 進行方向――車の前方だ。

 ボスが、身体を半分ひねってこっちを見ていた。

「お前の分も、作ってきている」

 なんとあっさりと。

 ボスは、そんなことを言うのだ。

 あのチョウに浮かれ騒いで時間がない中で、絹の分まで天体望遠鏡を作っていたというのだ。

「自作か…すごいな」

 チョウにほめられて、彼は鼻たかだがだ。

 絹は――ただただ、嬉しかった。
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