ワケあり!
「天体望遠鏡って、自分でも作れるんだー。後で見せてね、絹さん」

 了が、興味深そうにニコニコしてくる。

「ええ」

 絹も、ニコニコになっていた。

 やはりボスは、手駒をちゃんと磨いてくれる人だったのだ。

 ついでとは言え、絹のために天体望遠鏡を作ってくれたのである。

 この世なんて滅んでしまえ――そんな気分になる日が来なければ、きっと彼女はそれを大事にするだろう。

「お父さんと仲、いいんですねー…いいなぁ」

 宮野が、純粋に羨ましそうだ。

 お父さんじゃない、と言うと説明しなければならないので面倒だ。

 どうせ、チョウおよび三兄弟は、知って(感じて)いるだろうから、絹はもう説明せずに流そうとした。

「おとう……あ、ううん…なんでもない」

 反射的に何か言いかけた了が、はっと気づいたように口をつぐんだ。

 そういえば。

 彼女の件を、一番詳しく知らないのは了だろう。

 京には、自分自身で匂わせ、チョウと将には目の前でしゃべった。

 ぽんぽん。

 絹は、言うのをやめてくれた了の頭を撫でる。

 よく我慢した、と。

 頼むから、天然宮野を揺り起こさないで欲しかった。

 誰にでも天敵はいる。

 絹にとってのそれは、どうも本当に人のいいお嬢様、ということになるか。

 簡単に傷つけたり、摘み取ったりできそうなのが、厄介だ。

 あまり分かりやすく絶望に突き落とすと、世をはかなんでしまいそうで。

「絹…」

 反対側から呼ばれ、彼女は視線をそっちに動かした。

 10人乗りとは言え、そんなに余裕はないので、ちょっと京よりに顔を動かすだけで、すぐそこに彼の顔がある。

 そのまま、京と話をしていたら。

「絹さんとお兄さんって…」

 天然宮野が、ぽろりという。

「すごくお似合い…もしかして、付き合ってたりします?」

 絹は、眉間を押さえていた。

 この――アマ。

 一生懸命、バランスを維持しようとしている絹に、大量の石を積み重ねる真似をしてくださったのだ。

 その質問に、答えろと? 答えろと!?

 絹は、ついボスをチラ見してしまった。
< 79 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop