ワケあり!
 大停電が起きた――じゃなくて、起こしたのね。

 絹は、笑うしかなかった。

 やることの発想が、やはり一般人離れしている。

 ボスに綺麗な夜空を見せるため、多数の家庭を暗闇に陥れたのだ。

「絹さん、空みて空!」

 了に、袖を引っ張られた。

「……!」

 声にならないとは、まさにこのことだった。

 星が、落ちてきそうだ。

 これまでだって、ここから見る星空は綺麗だと思っていたが、そんな考えは吹っ飛んだ。

 一面の星が、ギラギラと刃物のように輝く。

 美しいというより、恐いほど。

 きっと。

 古代の夜空は、こうだったのだ。

 空を見上げていた絹は、その圧迫感に耐えきれず、後ろによろけた。

 ぱたり。

 シートに、そのまま仰向けになる。

 視界に入りきれない星。

「絹、チビすけに踏まれるぞ」

 暗くても分かるらしい。

 寝転がった絹を、京が目ざとく見つける。

「ふ、踏まないよ。それに、チビじゃないや!」

 了の反論をBGMに、彼女は空に目を奪われたままだった。

「んー…星に踏まれた気分」

 絹は、くすくすと笑う。

 このまま、踏み潰されても本望かもしれない。

「…ありがとね」

 絹は、小さな小さな声で、囁いた。

「ん? 絹さん、何が言った?」

 了の耳に、音の破片が引っ掛かったようだ。

「ひとりごとー」

 そう。

 家にいる一人に聞こえればいい、独り言だった。
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