ワケあり!
「見せて見せてー」

 了が二人をかき分けるように、望遠鏡を覗き込んでくる。

 ボス、がんばったんだなあ。

「すごー…うわぁ」

 奇声をあげてはしゃぐ了を見下ろしながら、絹はそんなことを思っていた。

 やってることは、時々すちゃらかだが、本当にすごい科学者だ。

 それを、世界のために役立てようとは、まったく思っていないし、お金を稼ぐ道具にしようとも思っていない。

 もし万が一、チョウがボスの愛にこたえていたら、いまここにいるのは、ただのゲイのおっさんだったかもしれない。

 複雑だが、彼がノンケだったことに、感謝すべきだろう。

「これ…何で商品化しねぇの?」

 ボスの方を見ていた絹に、京が不思議そうに言う。

 売れると、思ったのだろうか。

「僕もこれ欲しいー」

 了が、足をぱたぱたさせている。

「先生は、商売人じゃなくて科学者だから」

 絹が苦笑すると。

「多分これ…新特許の塊だぞ」

 一般以外に、研究用、軍用と引っ張りだこになるクラスの、な。

 京の言葉には、危険な香りがした。

 もともと、ボスはもっと危険な思想だ。

 彼が将と出会わなければ、今頃地球はなかったかもしれないのだから。

 人工衛星撃ち落とす技術とか、入ってるんだろうなぁ。

 絹は、望遠鏡を見つめた。

 そういえば。

 絹は、ふと島村のことを思い出した。

 出かける前に、彼が何か気になることを言ったのだ。

 撃ち落としに断念した後に。

「あっ!」

 声をあげたのは、了だった。

 夜空に顔を向けたのは、将と京。

 下界を見たのは――絹。

 いま、一瞬にして、闇の濃度が変わったのだ。

 暗いは暗かったのだが、ずっしりと重い、ただの闇になる。

 下界を見た絹は、それに気付いた。

 町の明かりが――全て消えていた。

 大停電が起きたのだ。
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