身代わり王女に花嫁教育、始めます!
そんな恐ろしい王の近くに行かねばならないなんて。家族や恋人がいないので、涙の別れをせずに済むのが幸いか。

リーンにとっては母の眠るバスィールから離れるのが一番辛かった。


だが、大公には恩義がある。

母が病気で倒れたとき、海の向こうから高価な薬を取り寄せてくれたり、隣国の高名な医師を呼んでくれたりしたのは大公なのだ。

その甲斐虚しく、母は還らぬ人となってしまったけれど、受けた恩はきちんと返さなければならない。



バスィールの半分は豊かな緑が溢れていた。

だが半分は、荒涼な砂漠の大地。その砂漠の側がクアルンに接しており、緑の側が東の大国に接していた。

両大国はバスィールを通らないと相手国に攻め入ることができない。

そんな微妙なバランスの上に成り立つ国だった。


バスィールは百年以上昔からクアルン国王のハーレムに王女を捧げ、独立を維持してきた。クアルンの庇護から外れたら、たちまち東の大国が攻め込んでくるだろう。

あっという間に焦土と化し、どちらかの属国となる運命は避けられない。



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