身代わり王女に花嫁教育、始めます!
それは、最初に国境までリーンとホマーを迎えに来た馬車だった。

砂漠を移動するとき、貴人はラクダに乗らず、馬を使う。他国の馬では難しいが、クアルンの馬は砂漠の寒暖差に強い品種に改良されていた。ラクダより不便なのは水分補給の回数が多い点くらいか。


二頭の葦毛馬が絢爛豪華な馬車を曳き、砂丘をゆったりと越えて進んだ。

リーンは黒い衣の下に、あのときと同じ、バスィールの花嫁衣裳を身につけることを許された。


『夜中に出立して、太陽が真上に昇る前にテントを張り、そこで太陽の熱をしのぎます。そして日が沈み、気温が下がったところを見計らい、今度はひと息に宮殿を目指します。二回目の朝日を見るころには、宮殿に到着するでしょう』


国境沿いのテントを離れるとき、そう話してくれたのはアリーだった。


『あなたも幸運な方だ。王に気に入られ初めての妻にしていただけるだけでなく、正妃の座までお与えになるというのだから……』


そのことは、サクルがどうにかしてくれることになっている。

サクルという名前も、仮の名なのかもしれない。彼は水使いの神官で強い力を持っていた。狙われぬように、名前を変えているのだ。

リーンは懸命にサクルを信じようとしていた。


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