身代わり王女に花嫁教育、始めます!
「待て! 族長の弟とはアミーンのことであろう? アミーンは死んでなどおらぬ。こちらの――王の花嫁が砂漠の宮殿に到着しだい、奴は解放する。そう約束した、と聞いている」

「花嫁だと……馬鹿を言うでない。知っておるぞ。その女はバスィールの王女の偽者。ただの侍女にすぎぬ。それも身分の低い……姓すら持たぬ私生児だ!」


クライシュ族の族長を名乗るカッハールが叫んだひと言。

それはリーンの胸を貫いた。


ばれてしまった。それも、自分をよく思っていないアリーに。

このアリーはクアルン王の兄弟なのだ。仮に、生きてここから逃げ延びても、真実はすぐに王の耳に入るだろう。

元々姓のないクアルンと違い、バスィールでは父の姓を名乗るのが普通だ。砂漠の民は部族名が姓となる。そのため、父のわからぬ者には姓がない。

“シーリーン”それしか名乗れない彼女は、裏で私生児として蔑まれていた。


(ああ、やはり、サクルさまには伝えておけばよかった。このことで、彼の立場を悪くしてしまったら……どうすればいいの?)


リーンは真っ青になって立ち尽くす。

ところが――。


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