身代わり王女に花嫁教育、始めます!
あの涸れ谷近くのテントの中で、リーンの身体は悪魔ドゥルジにあらゆる場所を許してしまった。

体内こそ汚されずに済んだが……。『魔に侵される』そんなサクルの言葉を思い出し、リーンは浴槽の中に滑り込む。


一瞬、ヒヤリと冷たさを感じたが、すぐにジワジワと温もりを帯びてくる。柔らかくまろやかな湯は、リーンの身体を優しく撫で、その気持ちよさに蕩けそうになった。


「どうだ? 宮殿の水は清らかであろう? すべてを浄化する水だ。そして、常に最適の温度に保たれている」


目の前にサクルがいた。


リーンは吸い寄せられるように、彼の胸に触れる。こんなふうに明るい場所で、サクルに近づくのは初めてだ。

金色の髪と瞳がさらに美しく見えるのは当然だが、サクルの肌は濃厚な蜂蜜色をしていた。

松明の火が灯されたテントの中で、“浴室の作法”を学んだときは、逞しさばかりに気を取られたが……その肌は甘く、艶めいている。


(ああ……やはり、サクルさまはなんて美しいの)


あのときは懸命に目を逸らし、はしたない行動に出ようとする自分を抑えた。

でも今は――。


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