おかたづけの時間
1 初デート
 あたしの朝は早い。二階にある洗濯機にまず洗剤と水を入れて、一旦泡立ててから、(こうするとよく溶けるのだ)5人分の洗濯物を突っ込んでスイッチを入れる。それから一階のキッチンに行って、お弁当を作り始める。その時間になって家族が起きてくる。
「おはよう、冬香」
「おはよ」
「……」
 一番初めに起きるのは医学生の長男、春雄、二番目は私大の人文学部で作家をめざしている次男の夏樹、あたしをはさんで、弟で中学生の秋久(朝に弱くて不機嫌なのでいつも無言で起きる)
 朝ごはんは全員トーストを勝手に焼いて出て行くので、あたしは秋久と自分のお弁当を作っておかねばならない。
「パパは?」
「昨日遅かったから寝てるよ」と春雄。白いプラスチックのフレームに涼しい学者風の横顔。同じ両親を持ちながらよくできた兄だ。昨日の夜食器洗い機に放り込んだ食器を、フキンでていねいに拭いて棚へと直してくれている。
 ママは、4人の子育ての真っ最中に死んだ。
 だから、あたしを含む家族全員で家事全般をやっているものの、あたしにかかる家事の比重は大きく、すっかりこの家の主婦となっている。
 パパはそんなこどもたちのために、医者なのだが毎日一生懸命、勤務医として外科医の激務をこなしている。週一回の当直(泊り込みのお仕事ね)もあり、父にとって家は寝るだけの場所だ。
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