おかたづけの時間
 かといって、あたしだって花の女子高生。限りある時間を何とかやりくりして、自分の時間だって作らなきゃいけない。
 次男の夏樹が淹れてくれたコーヒーを一気に飲み干し、トーストをかじりながらお弁当の中身を詰める。今日はじゃこの炒め物に、卵焼きにほうれん草のおひたし。お弁当を作り終わったら二階に上がって、洗いあがった洗濯物をベランダに行って干す。
 それらの仕事をすませて、洗面所で歯をみがき、髪を簡単に整え、制服に着替える。
 高台にあるあたしの家からは、下の家々、あたしたちが通う学校、そして海が見える。海のそばの新興住宅地。海の青と空の青が交わり、初夏の白い光に雲が流れて、荘厳な眺めとなる。
 あたしは美しいものが好きだ。自分の部屋は白の木綿と木の家具で統一し、飾り棚には大好きなアンティークの雑貨をちょこんと並べ、出窓にはアイビーの小さな鉢を置いている。インテリアが好きだし、家事も好き。いつか、お嫁さんになって、洋館の素敵なお家に住んで、ガーデニングなんかしちゃって、幸せに暮らすのだ。
 人生の目標設定がいい夫の獲得!なので、あたしは、友人連中からこう呼ばれている。
 愛の狩人である。(ひどい言われようだと思う)
 そんなあたしの現在のターゲットは、大地主の息子、榊晃。(この家の敷地を含む新興住宅地は元々、彼の実家の持ち物だったらしいのだ)クラスは違えど、その美貌、家の資産など、あたしの理想にばっちりと合う。というか、はっきりいって一目ぼれだ。
 顔の造作が完璧にあたしの好きな顔だった。端整な面長の顔、切れ長の瞳。色は浅黒くて少しタフな感じも匂わせる。早いうちに手を打っておかないと簡単に売れてしまうではないか。
 あたしは十人並みの顔だし、たいしてスタイルも良くない。が、失敗を恐れるような女ではない。正々堂々と玉砕覚悟で告白し、このたび初デートへとこぎつけたのだ!
 違うクラスの晃と、学校で会うことはほとんどない。携帯に届くメールだけがあたしの大事な連絡箱だ。
 日曜日に空いてる?ってメールが届いたとき、あたしの胸は高鳴った。空いてなくてもあけますって。とあたしは携帯に向かってつぶやいた。
 
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