おかたづけの時間
この人、すごくすごく、偏ってる。どんなに顔と頭がよくて、家がお金持ちでも。人の気持ちを察することができない。(例えば女の子を汚い家に招いてどんな反応を示すかがわからないほど)孤独で…。駄目だ。こんなんじゃ。
 あたしは、わが家が一度、同じ状態になった時の記憶を思い出した。何もかも最悪だった。お母さんが出て行き、お父さんは激務の後に家事をしようとして失敗し家がどんどん汚くなって…。さびしくて、切なくて荒廃した我が家の光景。
その時立ち上がったのがあたしたち子供だった。当時あたしは七歳だったが、貧しい国の子供なら働いている年齢だ!と、長男の春雄に説得され、みんな幼いながらそれぞれの出来る範囲の家事をやって、一致団結して家庭崩壊の嵐を乗り切ったのだ。
 あたしは胸が痛くなった。勉強ができるなんていうのは関係ない。この人は、悲しいほど愚かだ。病んでる。一人というのは人を自立させるだろう。でも…多分、一人で生きることができない人だっているのだ。掃除ができないこと。それは生きることへの怠惰であり、ひいては消極的な自殺のように、あたしには、見えた。
 あたしはそれから変な正義感が胸の中にむくむくと湧き上がってくるのを感じた。
何とかして助けなくては。あたしには実家でのキャリアがある。この汚い家で溺れかけている大馬鹿者を、助けてやらなければ。
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