おかたづけの時間
4 おかたづけの時間
 美しい海を背にして、あたしは晃に言った。
「晃、今からあたしの言うとおりにして。まず、ジャージとバケツと雑巾とゴミ袋を持ってきて」
 あたしはサンダルを外に置いて、裸足で家に上がった。そして、足の裏に軽く痛みを感じながら部屋の奥までたどりつき、窓を開けて、風を通した。潮風が心地よい。
「この部屋を片付けようよ。じゃなきゃ、あたしには指いっぽん、触れさせないからね」
「ええ!」と晃は青くなった。
「まじで?」
「まじで、よ。頑張ろう。目標があると人間なんでもやれるわよ」
 晃は一瞬うつむき、そして決意したようにあたしの目を強く見返した。ああ、顔はきれいなのにねえ。とあたしは思った。この、生活無能力者め。
 あたしはトイレで彼の寝巻きのジャージに着替え、髪を結び、したくを整えた。
 レッスン1。お片づけの基本は、まず空間を一旦空っぽにすることからです。
 あたしは、晃に大きなビニールシートを近くのホームセンターで買ってきてもらい、家の外にある小さな庭にひいた。そして、リビングの荷物のすべてを運び出すことにした。
 出るわ出るわ、十畳ぐらいの広さのワンルームに不必要な大量の荷物が積まれた。ほとんどが本と脱ぎ散らかした洋服やタオルなどの汚れ物の類だった。それらを服と本とそれ以外の三種類に分けてどんどん積んでいく。2時間ほどもすると、さすがに家の中の荷物はきれいさっぱりと部屋の外へ出された。
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