おかたづけの時間
6 ほんとうの始まり
 次の日曜日は雨だった。
 あたしは傘を広げて、強い風にあおられながら、彼の家へと向かった。歩きやすいヒールのないサンダルで、膝までにカットオフしたジーンズにTシャツという姿で。
 あたしはもう、彼の前で変な気合を入れることもしなくなったし、彼もしないだろう。
 家につくと、彼が「おかえり」と言ってあたたかいお茶を淹れてくれた。ピカピカのキッチンに、新しく買ったらしき薬缶で沸かしたお湯に、新しい急須に日本茶を入れて。
 二人で向かい合ってお茶を飲んだ。あたしたち、たった二日間で、凄い濃厚なつきあいをしてしまったような気がした。お茶が喉を潤し、おなかの中までぽかぽかとあたためてくれるのを、ゆっくりと楽しんだ。
 海の音は荒れていて、雨は窓に叩きつけるようだ。でも、あたしたちは息を吹き返したこのきれいな部屋の中でやさしく守られている。言葉は心が乱れるから、こんなときはあんまりいらないんだ。あたしたちは、にっこり笑って、鳥がついばむようなキスから、夏を始めていった。
< 21 / 21 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop