手を出さないと、決めていたのに
「帰る」
 その即答は予想通り。
「送るよ、下まで」
「いい」
 返答は常に短い。
「そう……じゃあ、気をつけて」
 姉はテーブルの上のバックを忘れずに持ち、ドアを自分で開けると自分から出て行く。
 かなり憔悴しきった表情であったことは間違いない。
 だが、自分は今の姉の表情、暖かさ、柔らかさをもう一度確かめるように、ベッドへなだれ込む。
 今ここで姉が自分の下敷きになっていた。信じられないほどの興奮。
 まだシーツは温かい。
 目を閉じて、自分自身を癒す。
 姉は、今後自分にどのような表情を向けるだろう……。
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