時を刻む
兵どもが夢のあと
夜明けの空は
珊瑚か いや
生まれたての水の色か。
そんな事を考えながら
とりとめもなく
移りゆくさまを眺めていたら
小鳥が
きょうも私に
朝の訪れを、告げた。
◆
この世に生を受けて100年余。
"日比谷公園"
そう呼ばれる緑の森は
明治の昔から
変わることなく人々を包み
その腕(カイナ)に憩わせている。
わたしは
このただ中にあって
絶えずまどろんでいる。
その夢の狭間で
春のほほえみに
夏の笑い声に
秋の溜息に
冬の叫びに
この絶え間なく続く
四季というものの
なめらかな流れに
ちく、たく
ちく、たく
不粋に
折り目正しく
針を刺すのである。
「とき」を司る
わたしは
「時計」と呼ばれている。
◆
目を閉じれば
まるで昨日のことのように
思い出される。
鮮やかに鳴り響く
軍艦マーチ
建物を焼き尽くす
怒りの業火
地響き
空襲
焼け野原
復興
闘争
亡者の群れ
わたしが
為す術なくただ
時の布に縫い付けてきたのは
人間たちの、命の軌跡。
◆
終わりの時が近付いて
改めて思う。
わたしは
儚くも逞しい
この"人"というものが
羨ましかったのだ、と。
傷ついて倒れ
天災に泣き
それでもなお立ち上がり
次の世代へ命を繋ぐ
しなやかな、その営みが。
わたしは
彼らに関わることなく
ただ運命(サダメ)に従い
刻み続けるのみであった。
何も残さずひとり
ちく、たく
ひたすら
ちく、たく
最期の、その時まで
ちく、たく、た…
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